北海道内には約5000橋の鋼橋が架設されているといわれています。これらの橋梁の中には鉛・クロム等の有害物質を含有した塗料が塗られた橋梁が多数あり、これらの塗膜は日々劣化しています。
 現在の橋梁塗替工事における、さびや劣化塗膜の除去はパワーツール等を使用した方法がほとんどであり、今後は環境へ配慮した塗膜除去工法の確立が最重要課題となっています。また限られた予算のなかで、最も効果的な防食のライフサイクルコストを考慮した場合、一般塗装系から重防食塗装系に切り替える必要があります。
インバイロワン工法は、環境に配慮した安全、確実に塗膜を除去するはく離剤による塗膜除去技術であり、独立行政法人土木研究所インバイロワンシステム株式会社で共同研究により開発した新技術で、特許を取得した特殊はく離剤工法です。
 鋼構造物塗膜処理等研究会は、北海道内で唯一インバイロワン工法を用いた塗膜処理および回収方法に関する技術確立を目指し研究している団体です。
工 法
特 徴
作業環境
環境への影響
塗膜回収性
課 題 等
機械的工法
ブラスト工法
塗膜はく離は容易に行えるが、大型装置を設置するための場所や耐荷重足場が必要
塗膜ダストを作業者が吸引しないための対策が必要。騒音が大きい
塗膜ダストの飛散防止対策が必要
塗膜ダストの回収率は低い
除去塗膜と研削材の発生量が膨大で処理コストが高い。特に充分な防護工が必要
電動工具処理
平面の塗膜除去は容易に行えるが、隅角部や添接部等では除去が困難。生産性が低い
塗膜ダストを作業者が吸引しないための対策が必要。騒音が大きい
塗膜ダストの飛散防止対策が必要
塗膜ダストの回収率は低い
隅角部や添接部等では塗膜除去が難しく、作業時間と労力が多く掛かる。充分な防護工が必要効率が悪く橋梁等大型構造物には事実上適用できない
ウオーター
 ジェット工法
塗膜はく離は比較的容易に行えるが、大型装置を設置するための場所や耐荷重足場が必要
騒音が大きい
塗膜片を含む廃水の飛散防止対策が必要
塗膜片を含む廃水の回収率は低い
塗膜片を含んだ廃水の回収と、処理コストが高い。防護工が必要
はく離剤工法
従来型
 はく離剤工法
塗膜は1層ずつしか除去できない。生産性が低い
皮膚腐食性が大きく、揮発性も高く、作業環境の溶剤濃度が高い
生分解性が低い。大気汚染の可能性があり、毒性を含むものもある
塗膜が溶解してしまい、回収しにくい
多層塗膜を一度にはく離できないため、作業工程が多くなる。黒皮やさびは電動工具等の併用が必要
インバイロワン
     工法
塗膜剥離が容易に行える。一度の塗布で最大500µmまでの塗膜のはく離が可能
皮膚刺激性がほとんど無く、揮発性も低いので作業環境の溶剤濃度は低い。労働安全衛生法に該当しない。
生分解性が高い。魚毒性は家庭用中性洗剤程度。
塗膜は湿潤シート状に軟化するので、回収が容易である。
黒皮やさびは電動工具等の併用が必要、素地調整1種にするにはバキュームブラスト等の併用が必要。
鉛・クロムなどの有害物質を含む一般塗装系の塗膜は、耐久性も低く耐用年数は10年程度です。鋼橋塗装のライフサイクルコストを削減するためには、耐久性に優れた重防食塗装系を適用することが有用です。そのためには今まで塗り重ねられている一般塗装系塗膜をすべて除去しなくてはなりません。インバイロワン工法は、塗膜の飛散等の心配が無く、一度で確実に多層塗膜を除去、回収することが出来ます。
化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)は、化学物質による環境汚染及び人体への健康被害を未然に防止するため、事業者が積極的に環境保全に参画する事を目的とした法律です。インバイロワンはPRTR法にも非該当であり、主成分が高級アルコールであるため、労働安全衛生法にも該当しない人体に極めて安全性の高いはく離剤です。
化学品テストガイドラインの各種試験において、分解度が28日間で60%以上であれば易分解性物質と判断されるところ、インバイロワンは94.6%の高い数値を出しており、生分解性が非常に高いはく離剤です。作業中や作業後にインバイロワンが飛散したとしても、環境に負荷を与えない環境対応型のはく離剤です。


鋼橋の重防食塗装系への移行には、2種素地調整以上が必要になります。
インバイロワンを使用したはく離剤工法と、その他の機械的工法の特徴等を比較しました。
試算前提条件

試算条件1 : 環境対応型現場塗替素地調整/塗膜ダストを作業場外に飛散させない。除去塗膜の分離・回収
試算条件2 : 対象塗装系/A系(フタル酸樹脂系)、B系(塩化ゴム系)
試算条件3 : 素地調整程度/2種素地調整程度以上

●労務単価については、財団法人経済調査会「積算資料」の東京都の基準額より算定した。

●諸雑費の計上は労務費×諸雑費率23%(国土交通省文献を引用、開放部率を採用し、はく離剤工法を10%とした。)

●はく離剤塗布量はロスはスプレー塗布により、塗料のスプレー塗装ロス=7%とした。

●塗装系、塗膜厚、気温等により、塗布→除去の回数が異なる場合があるので、事前調査のはく離試験で判断する。

 また、膜厚が500μm以上の場合もはく離試験にもとづき積算する。

●対象塗装系は鉛・クロム等の有害物質が含有するものとし、特別管理産業廃棄物に分類するものとした。

●PCBを含む塗膜の場合は、安全管理および廃棄物の扱いが大きく異なるため、別に調査が必要。

●特許使用料は(材料費+労務費+工具損料+諸雑費)の4%となっている。

●足場、防護工(板張りやシート防護等)の費用は含まない。

●産業廃棄物は廃棄物の種類により適正に処分。

試算数値/100㎡あたり
1000㎡以上
(1000㎡以下は20%増し)
元請諸経費は含まない。
特許使用料は直接工事費の4%
従来型はく離剤:800円/Kg
インバイロワン:2,400円/Kg(運搬費別)
基準労務費(東京都労務単価に準拠):25,000円/日
ガーネット:70円/Kg
産業廃棄物処理コスト:1,000円/Kg
排出廃塗膜の量:1~3kg/㎡